「コミュニケーションするロボットは創れるか」のレビュー

いままでに開発されてきたロボットに足りないもの、それは「自律性」であると説き、どうロボットにそれを持たせるかをテーマに説明していく。

初めに知識についての人工知能的な方法論について語るが、そこでは「国語辞典の罠」と呼ばれるトートロジーに陥る。
そのため、ロボットが環境との相互作用によって、意味を獲得していく方法が必要だとしている。

飽きられてしまうロボットの例にAIBOがあがっているが、AIBOは設計者が作成したパターンを使用者がダウンロードして使うだけなので、ロボットは成長するものの、違和感があるという。

飽きられるロボットと飽きられないロボットの違いとして、「自律知」と「道具知」があり、ロボットに何か頼みごとをしそれをロボットが音声認識してタスクを実行した、というだけでは面白さが感じられず飽きる。自律知を持ったロボットなら使用者の予想できない動きをするので飽きない。それにより、ペットロボットを本物のペットのように感じられるという。

本書に必要な知識として、ピアジェのシェマ理論や、ギブソンアフォーダンス、谷のRNN、強化学習オートポイエーシスなど、読者に求められるものは多い。「知能の謎」や「脳・身体性・ロボット」、「基礎情報学」を読んでいると入りやすいかもしれない。
博士論文よりは一般的になっているものの、専門用語は多く、読むのも苦労するだろう。逆に数式などを知りたい人は博士論文を読んでくださいとのことだ。

文章が硬いので読みづらさはあるが、良いトレーニングになると思う。なにより、このような文章を書く著者に脱帽である。

本書では、コミュニケーションと題しているが、言語を使った会話などは扱わず、原初的な部分に焦点を当てている。この理由として、いままでの言語学では統語論に言語の本質を見出そうとしてきたが、成果が出ていないため「旧来の言語学が行ってきた、言語系を他の系との相互作用のない自律的な系とみなすのではなく、言語・記号系が自律的適応系の身体を通して物理環境・社会環境に接続されながら創発的に形成されるものであると考え、記号的・社会的な世界と、物理的・身体的な世界の「間」に焦点を当てた」。

ここを解決しない限り、第2,第3のAIBOを産み出してしまう。「ロボットが身体と経験に基づいて言葉を接地しない限り、ロボットはスイッチの代用でしかなく、道具知から抜け出すことはできない。」が、個人的には、コミュニケーションするロボットは道具知と自律知を併せ持っているのではないかと思う。

本書の結論(推理小説じゃないから言っても大丈夫か?)では、「コミュニケーション」の全てを明らかには出来ていないが、足りない部分をこれから一つ一つ埋めながらやって行くしかないと述べている。そして、本書は間違いなく、それらのピースを埋めてきたのであり、これから埋めていこうとする人にとっても有益だと感じた。